Previous night


 イッシュリーグ四天王のギーマと言えば、容姿はさることながらその独特の雰囲気、専門のポケモンのタイプの雰囲気も相まって下は園児から上はマダムにかけて強い人気を誇る色男ということは、イッシュ地方に住む者にとって周知の事実といってもいいものである。
 その噂の彼が一人の子供を連れてきた。年のころは2〜3歳くらいだろうか、黒い髪に利発そうな顔つき、釣り目がちなその姿はどう見てもギーマ瓜二つでこれには思わず廊下ですれ違ったリーグ職員も目を丸くした。
 もちろんそれはギーマと同じ四天王である三人にも同じく言える反応であり、三人いれば三人、各自違う反応で、

「あら……どこの女に産ませた子なのかしらね……」

 といつもの眠たそうな表情に加え若干の冷たい視線を浴びせてきたカトレアに言われたり、

「何故おまえはリーグに子供をつれてきているんだ! ここは遊戯場ではないんだぞ! こ、こら、足にまとわりつくな、べ、べ、別にかわいいなんて思ってないんだからな!!!!!」

 とあれ、お前子供好きだったのか? と意外な一面を見せたレンブが顔を真っ赤にしながら(こちらをちらちら見ながらも)走り去っていったり、

「わあ、まさかの出来事にインスピレーションが湧きました! ねえねえギーマ君、ちょっと詳しくいろいろみっちりと教えてもらってもいいかな?」

 とメモ帳を片手にやけにきらきらとした表情で追いかけてくるシキミから逃げたりと散々な目に遭い、精神的にも体力的にも赤ゲージが点滅を始めそうな勢いでぐったりとしていた。

「ギーマさん、私の知らない内にパパになっていたんですね。それならそうと教えてくれれば良かったのに」

 そんなところに一際冷たいぜったいれいどの視線を向けてきた女性が一人。髪を束ね、きりっとしたスーツに身を包んだキャリアウーマン然とした彼女は、プライドの高さと比例しているかのような目算でも10センチ以上はありそうなハイヒールを鳴らしながらギーマの前で歩みを止めた。
 ――もう少しでポケモンセンターの託児所に着くというところであまり会いたくない相手に出会ってしまった。
 知らない人間が目の前に現れ、恐縮をしてしまった子供に優しく笑顔を見せた彼女を見てギーマの服を強く握っていた子供は警戒心を緩めたようだ。この子は将来有望かもしれない。なにせギーマと好みが似ているのだから。

「もしかしたら聞いたかもしれないが、この子は私の子ではない」

 今日は朝から散々だ。突然姉が朝早くに訪ねてきたと思うと「突然の仕事で違う地方に行かなければならなくなった」「しかもそれは今すぐである」「子供に関する手続きをしているヒマさえない」という旨をまくし立てギーマの返事を聞く前に自分の子供をギーマに預け飛んでいってしまった。託児所には満員だから無理だと門前払いを喰らいベビーシッターを雇おうとシッター協会へ連絡したものの今日はニャルマーの手を借りたいくらいに忙しいので派遣はできないと断られ、苦渋の決断でリーグに連れてきたら誰もがギーマの子だと疑いもせずに好奇の視線を送りつけてくる。
 さすがのギーマも朝からの周りからの好奇の目や想像力豊かな人間に噂される話題の内容に辟易していた。自分の子ではなく人から預かった子だとはいえ、その真相を知らないものにはそんなことは関係なく実はギーマには愛人が何人もいてそのことが一人の愛人にばれたので女に子供を残しされ捨てられた、や、行きずりの女と関係を持った後に家の前に「あなたの子供です、わたしはもう疲れました」という置き手紙とともに子供が残されていた、など何故か全部ギーマが遊び人の自業自得野郎のように噂をされている。それはギーマがあくタイプのエキスパートというのが原因なのかギーマに嫉妬をしている人間の趣味の悪い嫌がらせなのかはわからないが、どんな思惑だとしても聞いていて気持ちのいいものではない。

「へえそうなんですか! 私てっきり、はっきりと自分についている悪い虫を追い払うために最終手段を使ってきたのかと思いました!」

 こんな場面で無く、台詞の内容さえ違っていたら笑顔でハキハキと話す好印象な女性とギーマは受け取っただろう。だがこの場でこの台詞は明らかな非難が込められ、逆に耳につく音程となってギーマを襲う。

「好きに取ると良い。私のこの行動をどう解釈しようと君の勝手だし、君にどう思われようとも私には関係が無い」

 朝からのイライラをぶつけるかのように半ば八つ当たり気味ににそう言ってしまい、目に見えてが打ちひしがれていったを見てギーマは言いすぎたと我に返った。

「……そうです、よね。すみません、私にそんなところまで言われる謂れ、もうないですもんね」
、今のは――」
「これ、依頼されていたデザインの一覧です。この中から好みに合うものを選んでください。お返事はメールで結構ですので」

 完璧なまでの営業用スマイルに押されてつい素直に書類を受け取ってしまった。そのまま踵を返し去りかけるに声をかけようとするも、その後ろ姿のあまりの話しかけてくれるなオーラと、遊びを強請るように引かれた右腕に気を取られ、ギーマはこの場でに謝罪をする機会を永遠に失ったのだった。





 腹が立つ! 頭にくる! 脳みそが沸騰する!!
 ヒールを強く鳴らしながら廊下を歩くをリーグの職員たちは何事だと驚きながら避けていく。仕事にプライベートな事柄は一切関与させたくない、というのがの方針だが、今日だけは我慢が出来なかった。この後にもやらなければならないことが残っている、というのであればも頭を切り替えることが出来た。だが今日の仕事が先ほどギーマに渡したことで終了してしまった。この胸の中で煮えくり返る気持ちをなんとしよう!

「おおぅ!?」
「きゃっ!」

 怒りで視界が狭くなっているは予定調和というべきか、廊下の曲がり角で見事に人とぶつかりたくましい胸板へと飛び込んでしまい慌てて体勢を立て直した。

「すみません、前方不注意でした!」
「いや、構わんよ。こんな美人に胸に飛び込んできてもらえるとは役得だな」
「あ――、アデクさん!」





 要するに見かねたのだろう。イッシュの頂点に君臨するチャンピオンが仕事が終わったと同時にリーグお抱えデザイナーのに連絡を取り、飲みに誘ったということはそれほどまでにの様子は酷かったということだ。
 一度廊下でアデクと別れてからの手持ち無沙汰な時間はオフィスに戻りまだ2ヶ月の先の仕事の図面を描いたり新しいデザインを考えてみたり、同僚に「、オーラがすごい怖い」「先輩がものすごい鬼気迫る顔で仕事をしている」「今日はもう帰って休んでもいいのに、どうしたの?」などなど色々と心配をかけてしまったのでアデクからオフィスへ「を少々借りたいのだが」と連絡が入った時には嬉々として送り出されたものである。
 アデクに連れられて来たこのソウリュウシティの隠れ家的な落ち着いた雰囲気の酒場をはいたく気に入り、最初こそ遠慮をしていたがアビエイションを切り口にコロニー、スパニッシュ・タウン、フェストルスと可愛げの無い辛口のカクテルを次々と飲み干し、バーテンダーに頼んだヤングマンが出てきた頃にはすっかりと酔いどれになっていた。

「……ケンカを、したんです」

 カクテルグラスに添えられたチェリーを指でつつきながら、ぽつりとはそう漏らした。名酒リングマ殺しを味わいながらアデクはそれを聞く。酔いに後押しされて出た言葉を吐き出すようには続ける。

「原因は些細なこと。でもお互いにヒートアップして、もう知らない! って二人してなっちゃって。本当は仲直りがしたい。でもプライドとか、意地とか、そういうのが邪魔をして……ギーマも何も連絡してこないし、このままじゃダメになる、それは嫌だ! って、ちょうど仕事の用件もあったので、ついでに食事に誘って、そこでごめんなさいって言おうと思ってたんですけど……」
「そこであの子供を見てしまったわけか」
「そうなんです。ちゃんと後からあの子はギーマのお姉さんの子だって理解したんですよ。でも、でも! 私頭が真っ白になっちゃって! その時はもうギーマの子だ、としか考えられなくて。つい、生意気ことを口走ってしまって……そうするとギーマは自分の子じゃないって言うし、私には関係、ないって、言うし! でも、しょうがないんですよね。最初に信じなかったのは私。……好きな人を信じれないって、酷い女。これじゃ振られるわけですよ」

 ギーマを怒らせてしまった。でもあんなこと言わなくても良かったのに。いいや、私が悪いのは分かっている。とがぐるぐると独り言のようにつぶやくのを見て、アデクは酔わせて正解だったな、とコップの中身を全て飲み干す。
 ギーマとは相性はいいはずなのに、いかんせんお互いに意地っ張りなきらいがありすぎる。ギーマは未だに好きな子ほどつつきたいという性分を持ち合わせている男であるし、もプライドが邪魔して男に可愛げのあるところを見せることが出来ない女だ。なのできっとシラフのままでははこんな弱音は吐かなかった。が一人でこの問題を解決出来る女ならばアデクもわざわざ若い女をバーに連れてきて奢ったりはしない。
 リーグの廊下でぶつかった時のは複雑な様子であった。怒っている、というのを体全体で表しつつもどこか寂しげで、深い悲しみを心に秘めていた。しかしそれを素直に表に出すのは嫌だ、という大層我侭な気質を持ちつつもそれを完全に気心を知れた者に隠す非情さも無い。

「それを決めるのは時期尚早というものだ。ちゃんと話し合ったか?」
「……きっと会ってくれないですよ」

 グイ! とビターな薬味が強いレディースを飲み干し、は顔を赤くして「ノックアウトをください!」とバーテンダーに吠えた。
 顔見知りのバーテンダーはちらりとアデクを伺い、アデクが構わんと頷いたのを見て薄緑色のそれを出し、が一気飲みをしそのままカウンターに撃沈したのを見守った。

「アデクさんも変わらないようで」
「うむ、ははは! どうも若者を見ていると昔の自分を思い出してな。つい手助けしてやりたくなるのよ」

 以前も尖ったレパルダスのような雰囲気の男を連れてきて本音を吐かせるまで飲ませていたことを覚えているのだろう。悪戯が成功した子供のように笑うアデクに、バーテンダーはやれやれと酒を注ぎ直した。



 アデクと飲む、ということでサイレントマナーモードにして鞄に入れていたのだろう。さてギーマを呼ぶか、と自分のライブキャスターを取り出しかけたところでの鞄から彼女のライブキャスターがずり落ち、その拍子に着信履歴の画面が表示された。そこに並ぶ同じ人間の名前。おもわずアデクは笑ってしまった。彼女のライブキャスターを鞄に戻し、自分のものでギーマに連絡をする。

「ギーマか。わしだわし。ああ、今子供を帰したところなのか、大変だっただろう。わしも孫の面倒を見るときは大変な思いをしたものだ。うん、そうだな。今わしの隣で潰れておるよ。いやいや、ははは、そんなつもりは無いからこうして電話しておるんだよ。うむ、わしが送っても良かったんだがな、家を知らんのだよ。は暫くは起きそうにもない。ここは一つ、わしを助けると思って頼まれてくれんかの」

 すぐに行く、と言い残し乱暴に切れた画面を眺め、思わず漏らした笑みは誰にも見られることはなく酒場の喧騒に消えていった。





「ゲームをしようか。君が負けたら服を一枚脱ぐ。もちろん私が負けたら服を一枚脱ごう。そして最終的に何も身につけるものが無くなったらゲームは終わりだ。そこで勝敗が決まる」

 と、いうギーマの説明を受けて何度かゲームをし、しかしその全てではギーマに敗れ、あとは下着を残すのみだ、とストッキングを脱ぎながら気付いたところでは口を開いた。

「……私、よく考えたんですけど」
「うん?」
「これ、滅茶苦茶私が不利なんじゃないですかね」
「そうか? それは気がつかなかった」

 悪びれずに悪タイプのような笑みを張り付かせて言うギーマに、はそうか気がつかなかったのならば仕方が無いと納得をする。
 ――この状況に納得をしてしまえる程度には、は酔いが抜けていなかった。
 冷静に考えればプロの腕を持つギャンブラーであるギーマに素人のが勝てる見込みなど零に等しい。それはギーマも重々承知のはずだ。それでも未だ酔いの冷めないを言いくるめ、己に有利な状況が一重にも二重にも重なった状態でゲームを進めるのは、がアデクと二人きりで飲んでいたということがギーマの胸に引っかかっているからだろう。
 もちろん二人に何かがあったと思っているわけではない。アデクはそのような人間ではないし、だってそのような行動には出ないだろう。人間性を知っているからこそ、アデクがを見かねて慰めのために飲みに誘ったのも予想がつく。
 ――ギーマが耐えられないのは、そんな行動を取らせてしまった自分に対してだ。己の行動でが他の男と飲みに行くような事態を招いてしまった。まだアデクだったから良かった。これが他の男であったならば? はそれについていっただろうか? ……ついて行かなかった、と自信を持って言えない自分が、嫌だった。
 男の飲みの誘いに応じたが憎い。電話に出なかったが憎い。だがそれは、全てギーマの身から出た結果だ。この状況に対してもそうだ。自分は何をしている? 意識が明瞭でない相手に対し無茶な注文をし、思い通りになるように場を作っている。にまた八つ当たりをしている。
 自分のなかでぐちゃぐちゃとマーブルになった気持ちはどうすれば落ち着くのだろうか。素直にギーマに応じるを見ながら、本当に自分のしたいことはこれだったのだろうかと自己嫌悪に陥る。

「……ギーマ」

 余程酷い顔をしていたのだろうか。まだ目の焦点が定まっていないが心配そうに動きを止めたギーマを机越しに覗き込んできた。
 ……そうだ、認めよう。自分はこの女が愛しいのだ。酷くくだらないことで喧嘩をして、未だにその清算が済んでいないからといって抑えられる気持ちではなかった。
 ギーマは手に持っていたカードを全て投げ出し、目の前にいる女の唇を強く奪った。



 ――これは、なんだ。
 は目まぐるしく変化する自分の視界を理解出来ずにいた。
 先ほどまで自分はカードを持ってギーマの目の前に座っていたはずだ。それなのに今は柔らかい絨毯の上で体をまさぐられながら激しいキスをしている。徐々に今の状況が理解出来てきた。ぼんやりとしていた視界が少しずつ開けてくる。
 煩わしそうに自分のシャツのボタンを外すギーマに見つめられることに耐え切れず、は腕で己の顔を覆って叫んだ。

「ばっ、馬鹿じゃないんですか!? キスしてセックスをすれば私の機嫌が治るとでも!?」

 そしてそれは正解なのである。はギーマが好きだ。好きで好きで堪らない。手をつなぐだけで幸せだし、抱きしめてもらえたなら天にも昇る気持ちになる。気恥ずかしくてそんな素振りをギーマの前で見せたことはないが、ギーマの前でははただの初心な小娘にされてしまう。それを自覚しているからこそ。間近にギーマを感じているからこそ。

「うっ、うわあああん!」
「何故泣く!?」
「こ、恋人じゃないのに、っ、ご機嫌取りのためのセックスなんて、いやだあ!」

 普段のからは想像もつかないほどの取り乱し様にギーマは言葉を一瞬失った。しかしそれはが泣き崩れているということが原因ではない。が放った言葉に、だ。

「私は別れたつもりなんてないぞ!」
「うそ!」
「うそとはなんだ!」
「だってギーマ私のこともう知らないって! リーグでも私にはもう関係が無いって!」
「それは売り言葉に買い言葉で言ってしまっただけだ!」
「うそだああぁ! 私は振られたんだ!」

 普段強く自制をしている人間が限界を迎えるとこうなる、という見本をは見せてくれた気がした。これは他の人間であったならば興味深いが少し喧しいな、という感想だけで終わっていたが、ギーマにとってのは決して他人ではない。見栄っ張りで肩肘を張って常に自分にプライドを持って前を見ている、それでいて心を開いている相手にはぎこちないながらも甘えてくる、なんとも不器用で可愛い恋人なのである。

「むぐっ、ぅん…………」

 こうなってしまったへの対処法は一つ。その煩い口を塞いでしまうことだ。今までもそうしてきたし、今回だってはゆっくりと大人しくギーマに体重を預けてきた。唇を離し、軽く口や鼻にバードキスをする。すん、とが赤い目で鼻をすする音が聞こえた。

「……先ほども思ったが、飲みすぎだ。とても酒臭い」
「う、うるさいっ。誰のせいでここまで飲むハメになったと思ってるの」
「それはお人好しのチャンピオンのせいだろう。それとも何か、君は私のために酒漬けになってくれたのかな?」
「、んっ」

 何かを確かめるようにギーマの舌はの口内をまさぐり、そのあまりの気持ちよさには何も考えられなくなる。今夜は何を飲んで意識を飛ばしてしまったのかも、何といってギーマの謝ろうとしていたのかも……全てギーマとの吐息の中に消えていく。

「……ハーブに、ペパーミント……ノックアウトかな。少し、オレンジの味もする」

 もうギーマが何と言っているのか分からない。ただ、離れていったのが寂しくて自分から頭を上げてキスをする。
 このまま絨毯の中に溺れてしまいそうで怖くなる。 

「ギーマ、ギーマ……っ、好き、好きなの……つよく抱きしめて……っ」
「分かっている、離さない。愛してる、本当だ……」

 溺れる夜があるとするならばきっとこれがそうなのだろう。
 ギーマ、私ずっとあなたと一つになりたいの。





 二日酔いの朝というのは最悪だ。体はだるいし気持ちが悪いし食事が喉を通らない。だがしかし ”体は資本、正しい健康は正しい食事から” が座右の銘であるの辞書に朝食抜きという文字は載っていない。バランスのとれた食事をよく噛みよく味わい、最後にコーヒーで締める頃には体調の悪さなどどこかへ吹き飛んでいた。

「君は怪物だ」

 昨夜の激しい運動の反動をモロに受けているギーマはそんなを怖く思う。
 周りの人間は二人のことを相性が良い、ナイスカップルだともてはやすがギーマは決してそうは思わない。

「朝食は今日も食べないんですか?」
「私は遠慮するよ。食べるとむしろ体が重くなる」
「……わ、私が重いという、皮肉ではないでしょうね?」
「オーケイ、言い直そう。食べると”胃”が、重くなる体質なものでね。本当に面倒くさい女だな君は」
「こっちの台詞です。そんな私に付き合えるエネルギーがあるのならもっと体を鍛えたらどうですか。吹けば飛んじゃいそうじゃないですか」

 口を開けばこれである。これだから口喧嘩は絶えない。が、今日はいつもよりは柔らかい口調であった。
 という人間は、酒を飲んだ後の記憶というものが酷く不明瞭になる。だからこそ昨日はギーマも恥ずかしげもなくに甘え愛を囁き深く愛したのだが、そんな姿は普通の状態では恥ずかしくて見せられたものではない。
 スカーフを巻きながらいつもよりもスッキリとした表情でいるも、きっと昨夜は酔っていたからあんな姿を見せてきたのだろう。これもアデクの計算の内のような気がして苦虫を噛み潰したような気分になったが、が覚えていないのならば意味はないだろう。

「なにか知らないけれど、昨夜はギーマが優しかった気がします」
「気のせいだ、夢だよ夢。早く忘れるといい」
「……私たち、ちゃんと仲直りしました?」

 やはり記憶が曖昧のようだ。子供のような顔をして聞いてくるが可愛らしくて、思わず笑ってしまうと睨まれてしまった。
 仲直りはしたさ、と伝えるとは何かを考える素振りをして、ギーマの目の前に立った。ヒールを履いていない今だといつもよりも目線が低い。

「覚えてないのはちょっと腹立たしいので、えーっと、改めて」

 が背伸びをした、と思うと肩をぐいと引き寄せられた。そのまま軽くキスをされ、再び離れる。

「愛していますよ。……例え隠し子がいてもね」

 挑発的な笑みでそう宣言され、挑発をされたということは攻撃しか出来なくなるということである。腰に腕を回して逃げられないようにし深くキスをすると、は腕を回しすぐに応えてきた。
 私だって愛しているさ。これを言うと絶対に反論をされるだろうが、君よりもずっと愛している。……私に隠し子は、いないがな。


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