※オーバの妹です
※ぎゃあぎゃあ騒いでるだけ




「夏だーーー!!!」
「夏と言えば海だろ常識的に考えて!!!」
「ということでデンジさん海に行こうぜ!!」
「ごめん俺今日28日目だからちょうど被るわ」

 男のお前に28日周期でなにが来るというんだ! というお兄ちゃんの叫びと共に、デンジさんが面倒くさそうに手元でいじっていた機械からやっとわたしたちへと視線を向けてくれました! と思いきや3秒後には既にまたしてもその気だるげな視線は手元へのわたしにはなにがなんだか分からないコードがごちゃごちゃしたような機械へと向けられて―――!!! っつーかこのジム寒っ!! 冷房きかせすぎ! どうやらデンジさんの頭の中には節電の二文字は無いみたいです! この人は学習と言う言葉を知らないようです!!

「本当は俺も行きたいのはやまやまなんだけど、どうしようもない理由ってあるだろ? 今まで黙ってたけど俺本当は女だったんだ」
「マジかよ! 嘘だろデンジ!!?」
「お兄ちゃん今まで気づいてなかったの!? わたしはとっくに知ってたんだから!」
「ああ、俺は知らなかったとはいえ一緒に風呂に入ったり海パン一丁でプールに行ったり、今までごめんなデンジ!」
「お、お兄ちゃん最低! けだもの! バクにもうお兄ちゃんに近づかないように言っておかないと……」
「というか嘘つくならもっとマシな嘘をつけよバカっ! そして少しでもいいから俺たちの方を見てください」
「ううっ、この部屋やっぱり寒すぎっ。水着で来るんじゃなかったよ」

 鳥肌ならぬポッポ肌がスタンディングオベーション、つまりは総立ちである。せめて上着を羽織ってくれば良かったな、でも外すっごい暑かったし! と改めて自分たちの姿を見てみると冷房の効いたジムでちゃんと服を着ている人たちの中でうきわやらビーチボールやらを持った水着姿の男女、なんというかユカイそうな人間である。
 勢いのまま突入してきたのだけれどもあまりのテンションの差にガクブルだよ! 誰かこの冷えてしまった心を温めて! と腕をさすりながら辺りを見回しているとピコピコと動くピカチュウのしっぽが視界に映った。あの愛らしいシルエットはチマリちゃん! とわたしは下がってしまったテンションを再び上げて足取り軽やかにチマリちゃんの元へと駆け寄った。

「あー! ちゃんだ!」
「やっほ、チマリちゃーん!」

 今日の暑さには挑戦者の方々も辟易しているようで、ジムの中にその姿は無い。暇だったのかチマリちゃんは夏休みの宿題と思われる絵日記を描いている途中だったが、わたしが近づいていくとその輝かんばかりの笑顔をわたしに向けてくれた。くー、かわいいねやっぱり!

「ねえねえうみにいくの? みずぎきてるー」
「そうだよ! 今日は暑いしねー。まあこのジムの中にいると分かんないけどね!」

 ボスンとわたしは持っていたうきわをチマリちゃんに被せる。チマリちゃんはわー! と嬉しそうにうきわをくるくるして、わたしもうみにいきたい! と言ってきた。

「お、じゃあ一緒に行っちゃう? わたしも久しぶりにチマリちゃんに遊んでほしいし」
「わーい、いく! デンジもいくの?」
「んんー? どうだろう……今お兄ちゃんが説得してるみたいなんだけど、あんまり期待できないなー」

「おい聞こえてるぞ! なあいいだろデンジ? 夏なんだから冷房ガンガンにきいた部屋じゃなくって照りつける太陽を全身に浴びながら泳ぎに行こうぜ!」
「俺は今日は油にまみれながらケーブルをいじりたい気分なんだ。兄妹水入らずで遊んでこいよ。ックク、海に入るのに水入らずでな」

「…………デンジさんのツボがわたし分からない。しょうがない、手助けしたる! はい、チマリちゃんの鶴の一声!
デンジもいっしょにうみにいこうよ!
よし、行くか海

 このロリコン……とお兄ちゃんがボソっと呟いたのを耳聡く聞き逃さなかったデンジさんはお兄ちゃんにローキックをくらわせていました。わたしも同じことを思ったのは秘密にしておいたほうがいいと思う。




※夏だ!海だ!オクタンダァー!?オクタン大量発生事件!〜触手の危機

 対デンジさん用チート技、チマリちゃんによる”鶴の一声”で一緒に海で遊んでくれる気になったデンジさんの気が変わらないうちに水着に着替えさせようとお兄ちゃんとデンジさんは奥へと引っ込んでいったのでわたしはチマリちゃんを連れて一足先にビーチに出た。チマリちゃんの家は近かったのでチマリちゃんが水着に着替えている間、わたしは日焼け止めを塗っておく。紫外線怖いもんね。お兄ちゃんとかは気にしてないみたいだけど後で皮が剥けたりして痛い思いするのは嫌だもん。

 ちゃーん! という声が聞こえたので振り返るとそこにはマリルリの姿を模したチマリちゃんの姿。なにそれかわいい! とわたしは走り寄ってきたチマリちゃんを抱き締めておいた。あと日焼け止めも塗ってあげた。この肌が赤くなっちゃうのはかわいそうだしね!

 二人を待とうかとも思ったがチマリちゃんがソワソワしていたので一足先に海に入ることに。もちろん準備運動は忘れない。

「つめたいねっ、きもちいい」
「本当だね、やっぱ夏と言えば海だよねー! あとでかき氷買ってあげる」
「やったー!」

 やはり皆さん考えることは同じなようで人がそれなりにいて、海の家や出店? みたいなのもあるのでチマリちゃんにそう約束をした。わたしも食べたいしね!

「デンジたちおそいね?」
「そう言われれば確かに。なにしてるんだろあのふたり…… (バッシャーン/近くで大きな水しぶきの起きた音) ぎゃーーー!!?」

 なになになにポケモンの大反乱!? と思い切り塩水をかぶってしまい耳にも目にも口にも水が入って絶賛悶絶中のわたしはとりあえず反射的に抱き込んでチマリちゃんを守れたことに安堵しつつも痛い目を無理やり開いてその場所を見る。髪が!顔面にはりつく! ともだもだしながらも水しぶきの起きた場所を見るとブクブクと下の方から気泡が出ていて、少し後に赤いモジャっとした、まあ簡単に言うシンオウの炎使いの四天王がまるでドザエモンの如く浮き上がってきました。上を見るとお兄ちゃんの手持ちだと思われるフワライドが。あーー、なるほど、そういう感じの、うん……死ね!!!

「……ッ、ごほっ、……お前マジでいい加減にしろよ……」
「ッぶはあ!! いや意外とこれ痛いもんだな!」

 お兄ちゃんの少し横でデンジさんが海面に顔を出して、少しむせたようにしてお兄ちゃんの背中をたたいた。どうやら一緒にフワライドから落下してきたらしい。お兄ちゃんは「少し高度が高かったかな!」と大笑いしていた。デンジさんも文句を言いつつも笑っていたのでなるほど同意の上でのことではあったらしい。二人とも派手好きだからなあ。

 とりあえず油断している二人に思い切り水をかけておいた。

「うおっ、なんだ!」
「ぶはっ!? 鼻に入った!」
「いきなり空から降ってくる奴があるかあ! 水浸しだっつーの!!」
「わあたのしそう! てつだうよちゃん!」

「くっ、チマリお前と戦うことになるとはな……!」
! 妹だからって容赦しねえぞ!」
「こっちだって負けないから!! ねっ、チマリちゃん!」
「うんっデンジかくごー!」

「「 ダ ブ ル バ ト ル だ ! 」」

ぐにゅ

 ぐにゅ?


カンカンカンカンカン※なにか警報のような音

『ただ今ナギサビーチにオクタンの大量発生警報が発令されました。海水浴中の皆さまは一度海から上がって避難してください』

 オクタンの大量発生!? なにそれめずらしい! と周りを見ると慌てて砂浜にあがる人やなにやら嬉しそうにボールの用意をする人やら反応は三者三様のようである。わたしたちは一旦大人げなく本気で水を掛け合っていた手を止めて顔を合わせた。デンジさんとお兄ちゃんはなにやら好戦的に目をキラーン! とさせて持ってきていたらしいボールに手をかけていた。でもバトルをするには浅瀬へ行かなくてはならないのでとりあえずみんなでビーチの方へ行こう、ということになった。デンジさんがうきわに乗ったチマリちゃんを引っ張って連れていく。

 わたしは今はポケモン持っていないし、他の人のバトルでも見ようかね、と付いて行きながら考えたところで先ほどの足の裏の感触を思い出す。あれっ、そういえばさっきのぐにゅってのは……。

「、っぐっ!!?」

 なんか嫌な予感がするなあ、早く砂浜に行こう、と思った時にはもう遅かったらしい、わたしはなにやら柔らかくそして弾力のあるものに足を掴まれ海の中に引きずり込まれた。慌てて足の方を見るとなにやら不機嫌そうなオクタンと目が合う。さっき踏んじゃったから怒ってんのーー!? と急いで絡み付いた手? 足? をほどこうとするもなかなかうまくいかない。行き成りのことだったので空気も足りないし、やばいこれ死んじゃう!? と半ば混乱した頭でそう思った瞬間、上から力強く引っ張りあげられた。

「ぷはっ!!?」
「おい大丈夫かよ!」
「おにいちゃっ、」

 すごいなんだかお兄ちゃんがカッコよく見える!! と感動したのも束の間、オクタンはまだあきらめていないらしくわたしの足を再度ひっぱる。

「いぎゃあああー! ぬるっとしてるぬるっとーー!」

 しかもなんだか増えている気がする。先ほどまでは一匹だったんだけれども、今はなんか少なくとも三匹に引っ張られているようなそんな感触。そういえば大量発生しているんだった! 仲間を呼んだのかこれ幸いとーー!

 絶対に離さないでね! とまあおそらくは鬼のような形相をしていたであろうわたしに若干の恐怖を抱きつつも、しっかりと腕を握っていてくれていたお兄ちゃんの背後にお兄ちゃんの頭にそっくりな赤くて丸いシルエットが飛び出してきた、と認識するよりも早く、そのシルエット――オクタンのタネマシンガンを後頭部にモロにくらってしまったお兄ちゃんはあえなくわたしの腕を離した。馬鹿兄貴ーーー! と心の中で叫びつつも再びわたしはインザ海。待ってましたとばかりにオクタンがわたしにわらわらと寄ってきて、赤いうねうねがわたしへと伸びる。いやーーー!! これなんて男性向けエロゲ!? 触手こわいーーーー!!

 そうやって触手にあえなく手篭めにされる自分を想像して正直だいぶもう希望の光を失ってしまっていたわたしの目に金色の、きらきらと光る何かが映った。え、なに、お迎え? とネガティブ真っ最中のわたしの頭はそう思い、しかし次の瞬間にわたしの体にビリッっと電流が走った。い、痛い! なに今のすっごい痛い!! 痛いってレベルじゃないぞこれは!! と一気に目が覚めて閉じかけていた目をクワっと開けると急に上に引っ張られた感触がして、気がつくとわたしはエレキブルにお姫様だっこをされる形で思い切りせき込んでいた。

「ゴホゴホッ! っがはっ! げほ、……はあ……はあ……、エレキブル……?」

 ああ、エレキブルってこんなにイケメンだったんだ……とわたしは自分でもなんだかずれてること考えてるなあ、と思いつつも明日エレキッドを捕まえてこようと心に決めた。



目が覚めるとパラソルの下で寝かされてました

 うーん? なんでこんな場所にいるんだっけ……と少し重い頭を起こすとパサリと冷えたタオルがお腹のほうに落ちた。誰かが頭に乗せておいてくれたらしい。周りを見渡すといろんなところで歓声が上がっている。…………。ああー、そういえばオクタンが大量発生を……。

 少しずつ記憶が戻ってきた。そういえばわたしオクタンの魔の手にかかりそうなところをエレキブル(最高にクール)に助けられて……。そういえばあのエレキブル、デンジさんの手持ちだったような? と他にあの場所でエレキブルを持つようなトレーナーがいなかったことからそう思ったが、いまいちそこらへんの記憶が無いので自信がない。

「おいもじゃもじゃ二号」
「もっ!? 失礼な! これはお兄ちゃんのあのもじゃもじゃとはかけ離れたパーマだもん! ゆるふわだもん!」
「もじゃもじゃには変わりないだろう」
「違います〜私のこれは仮にもじゃもじゃだとしても整理された美しいもじゃもじゃです〜。お兄ちゃんのあんな変なたまに片っぽだけに偏っているようなもじゃもじゃとは違うんだからね! なんかもうもじゃもじゃがゲシュタルト崩壊しそうなんですけど!!」
「ほら、飲め」
「え? あ、はいありがとうございます……」

 ひとりでうんうん唸っているところにデンジさんが来て、ポカリの入ったペットボトルをくれた。とりあえずありがたくいただいておく。

「あれっ、そういえばチマリちゃんは?」
「チマリなら母親が迎えに来てついさっき帰った。ずっとお前の心配してたな」
「それは悪いことを……。あーあ、かき氷買ってあげるって約束したのに、結局買ってあげれなかった」

 デンジさんはわたしのつぶやきを聞いて、いつもチマリが悪いな、となんだか親みたいなことを言ってきた。デンジさんって見た目からは想像しにくいけれど子供好きなんだよね。面倒見もいいし。ジムリーダーとしてのデンジさんと、お兄ちゃんといるときのデンジさん、そしてチマリちゃんといるときのデンジさんは全部違う風に見えるからなんだかおもしろい。わたしといるときのデンジさんはどんな風に見えるのかな?今度お兄ちゃんに聞いてみよう。

 そういえばお兄ちゃんはどこに行ったんだ……。一応は助けてもらった……? もらいかけた? 感じだからお礼言っておこうと思ったんだけどな。

「お兄ちゃんどこ行ったんですか?」
「オーバならそこで燃え尽きてる。水タイプに負けるかー! って手持ち全員で相手してたからな」
「お兄ちゃんらしい……」
「それにお前のこともあったしな」
「え?」

 最後の言葉はボソッと言われたので何て言ったのか聞きとることができなかった。あ、そういえばデンジさんにわたし助けてもらったんだった。お礼、確かまだ言ってない。なんて恩知らずなんだ、と思われる前にお礼を……!

「そういえば、デンジさんですよね? わたし助けてくれたのって」
「ああ、まあな。後ろ見たらお前らの様子がおかしかったから引き返して」
「あの、ありがとうございました。エレキブル……すごく頼りになりますね! わたし本当あのときは餌食になるかなっていう瀬戸際で」
「そうだろう! エレキブルはどんなときだって頼りになるんだ」

 自慢のエレキブルが誉められたからかデンジさんが目に見えてキラキラし始めた。なんだかデジャヴ、と思いつつもしばらくエレキブル談義に花を咲かせた。

「はあ……今度またじっくりとエレキブル見せてくださいね!」
「ああ、勿論だ。……なんだかお前、赤くないか?」

 え? と顔に手を当ててみると、確かに少し熱を持ってる感じ? ついでに腕や足も見てみる。……赤い。これは日焼け止め、取れてるな。思い当たる節はある、というか確実にあのオクタンにまきつかれたときに取れたのだろう。

「うわー、焼くつもりなかったのに! 塗り直そうっと。デンジさん!後ろお願いします!」
「まだ遊ぶ気かお前……あんな目にあったのに」
「だってまだ遊び足りないんですもん! せっかくの海なのに!」
「俺にこんなことさせてくるの、お前くらいだよ」

 と、なんだか嬉しそうに日焼け止めを塗るのを手伝ってくれているデンジさんを見て、ああ確かにジムリーダーにこんなこと頼む人はいないかもな? と思った。お兄ちゃんを見てたからそこらへんの感覚がマヒしているんだろう。わたしも大概お兄ちゃんに似てきたのかもしれない。厚顔無恥なところとか。……いやだな、それ。

 デンジさんに塗ってもらっているのは主に手の届かない背中なんだけれども、今さらながら、本当に今さらなんだけれども(あれっ、そういえばデンジさんって男の人だったよな)とドキドキしてきた。背中を触るデンジさんの手が、結構ごつごつしてて男の人、っていう感じだからそう思ったのかもしれない。バクくらいだとまだ柔らかさが残っているけれど、お兄ちゃんくらいになるともう本当骨ばっていて男の人、っていう手をしているから。デンジさんは機械をよくいじっているだけあって余計にそう感じる。

 ち、ちがうデンジさんはお兄ちゃんの友達で、それ以上でもそれ以下でもなく、でもなんというイケメン……! お兄ちゃんに慣れてるから余計にカッコよくみえる! どうしよう!

「親友と妹のいちゃついてるところなんか、あんま見たくないもんだな! 仲間はずれにすんなよ!!」
「な、何言ってんだこの馬鹿兄貴! さっき捕まえたばかりのオクタンちゃん、オクタン砲発射!!!」

 乙女に悶えているところを回復したのかお兄ちゃんが颯爽と登場。なんだかすごく照れてしまい、デンジさんが先ほど抜け目なくゲットしていたオクタンのボールを奪ってわたしが代わりに指示を出した。まだデンジさんに懐いていないというのもあって、わたしに指示でも聞いてくれたのでまあ先ほどのいざこざは水に流そう。ね!とりあえず、変な空気になったのを持ち前の空気の読めなささで壊してくれたお兄ちゃんに感謝である。



なんだかんだあって帰り道

「遊んだ遊んだ! わたしはもう満足!」
「絶対これ明日筋肉痛になってるって……はしゃぎすぎたな」
「俺もだ……このもじゃもじゃ兄妹、二人揃って加減ってものを知らないからな」
「お、お兄ちゃんと一緒にしないでくださいよ!」
「おいおい俺はこいつよりはまだ大人な対応だったろ!?」

 同時に抗議の声をあげて、デンジさんに笑われてしまった。く、くそう、お兄ちゃんのせいでわたしまで常識のない人間として認識されたらどうしてくれるんだ!
 
 でも、とデンジさんが続ける。

「俺はおまえらのもじゃもじゃ、嫌いじゃないからな。……また誘ってくれ」
「デンジさん……」
「デンジ……」

「いややっぱりオーバは駄目だな。なんか生理的に受け付けない」
「お前は俺で落とさなきゃ気が済まないのかよ!」

なんだかんだ騒がしいけれど、今日もナギサは元気です!






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