「折角だし賭けます?」
「ん?」
「バトルの勝敗」
「ふうん、面白そうだな。ま、たまにはいいだろう」
「よっしゃ! 今日は全力で行きます、ギーマさんが負けたら裸エプロンお願いしますいけっペンドラ―!」
「!?」

※負けられない戦いがそこにはあるのさ……そう、男にはやらねばならないときがある。それは突然勝負を賭けようと言ってきた顔なじみが裸エプロンを賭けようと言ってきた、そんなときだ。

「お、おかしいだろ……」
「やだ、何言ってるんですか。『だれかが勝てば相手した誰かが負ける。それが勝負ってやつだ』ってギーマさんの台詞ですよ?」
「そ、それはそうだが、ペンドラ―→ダゲキ→ハハコモリ→ウルガモス→コジョンドだなんて、こっちが圧倒的に不利だろう!? 悪意しか感じなかったぞ!」
「悪意だなんてとんでもない! ギーマさんに確実に勝利して負けて悔しがる姿と裸エプロンという未知の領域への恐れ、その恐怖に慄き恥辱に震えるギーマさんが見たいがために一生懸命あくタイプに有利なポケモンを育てた私にそんなものあるはずないじゃないですか! あっ、ちなみにエプロンは何種類か買ってあって、セクシー紐タイプとキュートフリルタイプ、あとはマニア向けウェイタータイプ、最後に東洋の神秘割烹着タイプがあるんですけどどれがいいです?」
「ああすまない、悪意なんてかわいいものなんかじゃなかったな。お前は悪魔だ!!!
「あっあっ、知ってますよ! こういう場合こう言うんですよね、我々の業界ではご褒美です!」
「……! そっそういうことをどこで覚えてくるんだきみは!」
「あのですね、シキミさんに色々教えてもらったんですよ!」
「(シキミ……!)」

※そういえば数日前から隣の部屋から叫び声がや嬌声やらが聞こえてきていたことを思い出して頭を抱えるギーマ。

「でも約束は約束ですよね? ギーマさんは自分が一回口にしたことを自分が不利な状況になったからといって撤回するんですか?」
「……! 言うじゃないか……。いいだろう、私も一介のギャンブラー。自分の未熟さが招いたことだと受け入れようじゃないか。だが、その……裸というのはやはり抵抗があるのだが」
「あっ、そうですよね、ごめんなさい。普通に考えてやっぱり裸っていうのはおかしいですよね、恥ずかしいですし。だからそのマフラーは脱がなくてもいいですよ
まずは君に普通という概念をきっちりと教えた方がいい気がしてきたな
「もう、ギーマさんがいちいち突っ込むから中々先に進まないじゃないですか! 受け流すことも覚えた方がいいですよ!」
「受け流したら大切なものが失われそうだからこうやって交渉してるんじゃないか!」
「ギーマさんはあくタイプ使いだから押せ押せで行けばイチコロだってシキミさん言ってたのに、全然ですよがっかりです!」
「ははは! 私の精神を虐めるというのならその作戦は成功しているぞ! 私の心はもうボロボロだ!!!

「さっきから聞いていれば突っ込むとか受けとか精神が凌辱されてしまいもうお前無しでは生きていけな身体になってしまったんだ責任……とれよ……とか! アナタたち本当どれだけアタシのツボを心得ているんですか色々受信できちゃってますよ!!」

「わっ、シキミさんいつからそんな物陰に隠れてメモを取ってたんですか? 私全然気付かなかったです!」
「……シキミ。勝手に私の台詞に脚色を加えないでもらえないかなんの官能小説だ
「まあまあ、いつからかなんてそんな小さいこと気にしてたら大局を見逃しちゃいますよ。ちゃん、首尾はどうかな?」
「いや、見てたんだろ君」
「それが中々ギーマさんが心を開いてくれなくてですねー、難航していたところなんですよ」
「そういうときは『心なんて二の次だ……足を開いてくれればそれでいい』って言えばイイんですよ!」
「いいわけあるか!」
「こころなんて……」
「意味も分かって無いくせに君も言うな!」
「今回の本のコンセプトは凌辱の果てに生まれる愛っていうのでねー、今行き詰ってたところだからアナタたちに協力してもらおうと思って!」
「さ、さては裸エプロンの下りもお前の入れ知恵だな!?」
「YEーS!!」
「(その上に突きだした親指を折ってやりたい……!)」

 そうやってなんやかんやでわいわいしていたら、私のお腹が空腹を訴えだして、そういえばもう遅い時間だなあ夜ごはん何食べようとかそんなことを考えながらお二人の楽しそうなやりとりを見ていたらなんだか若干蚊帳の外で寂しくもなってきました。そらをとぶを使えばポケモンリーグからでもすぐに行ける場所にあるので、一回帰ってご飯を食べようかなとかそんなことをぼーっと考えてるとシキミさんにからかわれ続けて疲れたのかギーマさんが私の座っているソファーの横に座ったので、すこしドキッとしました。

「まったくあの女は……どこからあんなに元気が湧いてくるんだ……」
「シキミさんの原動力は活字とバトルと薄い本だって聞いたことありますよ」
「……君もなのか?」
「私ですか? 私はおいしいご飯とバトルと……」

 あとはギーマさん。と言おうとして私は慌てて口を閉じた。口を滑らせてこんなことを言って「そんな目で私のことを見ていたのか、けがらわしいもう近付かないでくれ」とか言われた日にはもう私は立ち直れません……。

「と?」
「……薄い本ではないですね。というか薄い本の内容をどれだけ聞いても教えてくれなくって。私にはまだ早いってどういう意味でしょう?」
「シキミにもまだ良識が残っていたようで安心したよ……」
「?」
「いや、君はそのままの君でいてくれ。決して知ろうとしてはいけない。言うだろう?好奇心は猫をも殺すって」
「えっ、そんなに恐ろしいものなんですか!? その本っていうのは」
「ああ、私はあんなに恐ろしいものを見たことはない。シキミが昔私を新しい境地に誘おうとしてだな、その時に一度見たことがあるんだが、それ以来もう二度とああいった本には近づくまいと心に決めたね」
「そうなんだよ! 聞いてよちゃん、この人ったらアタシの秘蔵の本を思いっきり投げ飛ばしたんだよ! 酷いよね」
「行き成りあんなシーンを見せつけられたら投げつけたくもなるさ!」
「ふうむ、アタシとしては仲間を増やして軍資金を少しでも割り勘で減らせたらって思ってたんだけど、四天王魔改造計画の夢ここで破れたりって感じでしたよ。まっ、アタシとしては心に深い傷を負ったギーマ君をいじることで新たな萌えを発見することができてるから結果オーライって言えなくもないんですけどね!」
、もうこいつに近づくな。君までこんな風になったら私は……」

 続きがあるのかなと思って少し待ってみたけれど、ギーマさんはそれ以上なにも言わなかったのでその言葉はそこで終わりだったんでしょう。私がシキミさんみたいになったらギーマさんがどうなるか、それは少し興味があったけれど、その台詞のあとで私をちらりと見たギーマさんの瞳がなにやら初めて見るような色をしていたので私は何も言えなかったです。

「はあ、そういえばお腹すかないみんな?」
「ん、そうだな。もうこんな時間か」
「私もお腹ぺこぺこです」
「そうだギーマ君、アナタ料理上手だったよね! 久しぶりに手料理振る舞ってよ!」
「わぁ! 私もすごく食べてみたいです!」
「な、何故私が……ここなら近くの店に入った方が」
「この前四天王みんなでご飯作って食べたじゃない、あれギーマ君の料理そこらの店より断然おいしくってもうアタシメロメロになっちゃったんだから!」
「そうなんですよね……私そのとき用事があって行けなかったんで、本当心残りで……。みんなに聞いてもギーマさんのごはんすごくおいしかったって言うし」
「ここならちゃん家が一番近いし、そこで腕を奮ってよ! アタシたちも手伝うんで、ね?」
「はい!」
「……仕方ないな。今の状況は私が不利だし、この状況をひっくりかえせる奇跡も起きそうにない。、案内頼むよ」

 なんだかんだ言いつつも了承してくれたのはまんざらでもなかったのかな? と少し照れている風なギーマさんを見て私は思ったのでした。



「おいしい! ギーマさん、本当天才!」
「ぷはー! このために生きてるようなものよね!」
「はいはい。普段からもそんなふうに素直ならいいんだがな。おいシキミ、あまり飲みすぎるなつぶれる気か」
「やあね! おいしい料理においしいお酒、そして明日はメンテナンスのためリーグはお休み。こんなステキな状況が揃っているのに飲まないでどうするの!」
「まったく、の家だということを忘れるなよ。、君は飲むなよ、前一回酷い目にあったろう」
「大丈夫ですよう、もうあんな失態は起こしませんって。というか本当においしいです、私もう涙が……」
「それは大袈裟だろう……」
「こんなおいしいもの食べたことないです! ギーマさん、レシピ作ってもらってもいいですか? 私が作って同じ味が出るとは思わないんですが、知っておきたいんです!」
「ん? まあいいだろう」
「わあ、ありがとうございます! あの、もしよかったら他の料理のもいいですか?」
「別に構わないが……。いや、レシピよりも実際に作って見せた方がはやいものもあるな。どうする?君の都合さえ合えば教えてもいいんだが」
「! マンツーマンってことですか!?」
「…………まあ、そういうことだ」
「ぶっはは! ギーマ君がデレた!」
「お前はおとなしく酒を飲んでいろ!」

 わあ、嬉しい……と思いながら、少し頬が熱くなってくるのが感じられて、ギーマさんの言葉を頭の中で何度も反芻していたら頭もクラクラしてきて、ギーマさんを見つめるだけで胸がドキドキしてきて目の前がぐるぐるしてきて、

「……? 、少し顔が赤いようだが」
「うえっへっへ、もう旦那ァ、野暮なこと聞いちゃいけないっすよ! こんなのもう一目で乙女にはわかっちゃう症状じゃないですかあ」
「一体それはなんのキャラなんだ……。しかし目の焦点も若干合ってないみたいだが、……まさか」
「んー? なにかなその目は。アタシだってちゃんが下戸だって知ってるんだから、そんなまさか無理やり飲ますなんてことしなあっこれコーラじゃなくてコーラショック(酒)だった」
「こっちのはカルピスじゃなくてカルピスサワーじゃないか! なんで気付かなかったんだ!」
「やだ、それギーマ君にも言えることじゃない。ああ、でもなんだかさっきから酒の缶がどんどん減って言って見えたのは幻覚じゃなかったのね」
「まったく……急いで水を持ってきてくれ!」
「はあい」

「おい、大丈夫か?」
「らいじょうぶですうよ。なんだかギーマさんが4人くらい見えるだけなんれ、……いつのまにかげぶんしんおぼえたんれすか?」
「大丈夫じゃないな……今シキミが水を持ってくるから少し待ってろ。まったく、だから言ったじゃないか気をつけろって」
「うええ、だってえ、ギーマさんのりょうりおいしいし、みんなでわいわいするのすごくたの、しくて。ううう……ギーマさんの手つめたくってきもちいいれす……」
……」
「ギーマさん……」
「はいそこまでー!(ゴンッ)」
「だっ!」
「酔っ払った女の子に手ぇ出すなんてギーマ君らしくないですよ! フェアが好きなくせに!」
「だ、だからってコップで殴ることないだろう!」
「あうう、シキミさあん」
「はーいちゃんシキミですよー。お水飲もうね」
「はあい、……ん、んん、ぷあっ」
「……」
「今エロいこと考えてたら今度の新刊はギーマ君総受本にするからね」
「それだけはやめろ」
「あ、……ギーマさん」
「どうした
「そのエプロン、すごくにあってます……選んでよかった……。…………(すー)」
「……」
「……」
「……」
「……顔赤いよ?」
「……酔ったんだ」
「(お酒飲んでないくせに……)」



「はっ!」

 毎日鳴るようにセットしている携帯電話のアラームの音で目が覚めた。いつの間にか私はベッドで寝ていて、すぐに止めたお陰か横ですやすやと眠っていたシキミさんは起こさずに済んだようだ。

「う、うう、頭がんがんする……」

 シキミさんを起さないようにベッドから抜け出して、昨日の記憶を思い起こす。……断片しか思い出せないけれど、色々とお二人に迷惑をかけてしまったということは覚えている。あと、その、ギーマさんに抱きついているよう、な?形で介抱していただいたような、そんな記憶が頭の片隅に残っているのですが、これの真偽はいかほどに。
 お手洗い……とのそのそとリビングに出たら、ソファーにはもうてっきり帰ってしまったと思っていたギーマさんがそこで寝ていて思わずその少し乱れた衣服から除く肌をガン見してしまったのは許してほしいです。

か……」
「……!? です!」

 少し近づいてもう少しだけ様子を見ようとソファーの前に座り込んだと同時に私の邪気を感じたのかギーマさんが声をかけてきたのでもう本当ごめんなさいと心の中で謝りつつ自分の名前を叫んでしまった。

「もう平気なのか? 気分は?」
「あ、ちょっと頭が痛い以外はそんなにひどくないんで、大丈夫です!」
「君の大丈夫はアテにならないからな……ほら、私は今何人だ」
「えっ!? ぎ、ギーマさんかげぶんしんでも覚えてるんですか!?」
「酔ってるときと思考回路が同じとはな……裏表がないと考えるべきか……」
「?」
「いや、ただ君にギャンブルは似合わないなと思っただけだ」
「そ、そうですか? あっ、言うの忘れてましたけど、昨日来てくれたエプロン似合ってました! ギーマさんに似合うのどれかなって思いながら選んだんですよ」
「……まったく」
「? あっ、その他にもフリルタイプウェイタータイプ、割烹着タイプが残ってますけど」
「別に着てやってもいい」
「!? 本当ですか!?」
「ああ、もしかしたら覚えてないかもしれないが料理を教える約束をしたからな。着る機会はあるだろう。まあ、フリルタイプは君が着ろよ」
「はい! いろんなタイプのギーマさんが見れるなんて、それなら裸エプロンの話はなかったことにしても……」
「ま、まだ生きてたんだなその賭け」
「……あのですね、ここだけの話、あの裸エプロンってシキミさんからの提案だったんですよ」
「ん? いやそれは分かっていたが」
「え、そうなんですか?」
「(何故ばれないと思ったんだ?)」
「うー、私もまだまだですね、精進あるのみです。シキミさんと相談して、いろんなギーマさんを見てみようっていうお題で出た案だったんですけどね、でも買っておいたおかげでかっこいいギーマさんが見れたからこれって私たちの作戦勝ちですよね?」
「……、まったく、君たちの相手をするには身体がいくつあっても足りないな。ああ、最初に言っておくが私の指導は厳しいぞ、ついてこれるか?」
「はい、私こう見えて根性はあるんですから! ……ん? シキミさん……カンペ? 『できたら料理中はきゅうりやなすびなどを使っていやらしく……』」
「シキミィィ! まずは悪影響しか与えないお前から矯正する必要があるようだな!!」


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